生きる希望を失いそうになった人の相談に電話で応じる「福島いのちの電話」のホームページへのアクセスが急増している。芸能界で自殺とみられる事例が相次ぎ、厚生労働省が相談窓口を紹介しているためとみられる。新型コロナウイルスの影響が長期化する中、不安を抱えて一人で悩み苦しんでいる人は少なくない。地域ぐるみでいのちを守る取り組みを強化すべきだ。
福島いのちの電話のホームページには1日平均100件のアクセスがある。人気俳優の竹内結子さんが急逝したとの報道があった翌日の9月28日は581件と5.4倍に跳ね上がった。10月に入ってからも2~3倍近くで推移している。警察庁の速報値によると、今年1月から9月まで県内で発生した自殺者数は268人で、前年同期と比べ22人減少した。ただ、月別では4月までは減少傾向が続いていたが、5月以降は増加に転じており、先行きが懸念される状況となっている。
福島のいのちの電話は、新型コロナの影響による孤立や困窮、不安などによる自殺を防ごうと、8月から相談体制を拡充した。県の「新型コロナ緊急対策事業」として、これまで月3回だけ実施していた予約制の電話相談を毎日受け付けている。新たにメールでの相談窓口も開設し、受信後5日以内をめどに返信する取り組みも始めた。メール相談の後に電話相談の予約を入れるケースもある。
相談件数に占める新型コロナ関連の割合は、5月の14.4%をピークに6月以降は5~7%となっている。割合は減っているが、経営環境や雇用情勢の悪化、生活苦、孤独感などの悲痛な声が寄せられている。相談体制の拡充は今年度限りの予定だが、新型コロナの影響が長引くようであれば、継続を検討すべきだろう。
コロナ禍で活動を控えている相談員も多く、限られた人数で対応せざるを得ない難しさもある。福島いのちの電話は3年前から「ゲートキーパー」の養成に取り組んでいる。職場などで悩んでいる人に気付き、声をかけ、話を聴いて、必要な支援につなげ、見守る人のことを指す。県内の団体や職場に無料で講師を派遣している。これまでに約500人が受講した。こうした人材が身近にいれば、救える命は増えるはずだ。
直接、活動に参加できない人でも、資金面で協力できる。税制上の優遇措置もある。各方面の幅広い支援が、かけがえのない大切な命を守る後押しとなる。
(紺野正人)
2020年10月23日(金)福島民報新聞より