何気なく 医学雑誌を読んでいたら『内科診療のあり方』と題したエッセーが目に止まった。
《ある時、病院の医局の雑談の中で、『打聴診』の大事さを話したことがある。「先生たちの若い世代は打聴診で厳しく鍛えられたそうですので、自信があるでしょうが、私達は自信がありません。それよりもレントゲン写真や超音波診断の方が余程正確にわかります」と言った者がいたので、「それでは、山の中で病人に会った時どうするのだ」と言ったら、彼は黙ってしまった。
現在、医学の中での臨床検査の発達、諸検査機器の進歩普及には目覚ましいものがある。これは人類にとっての大いなる福音であることは言うまでもない。がしかし、これで事足れりとすることはできない。医療は人間が人間に働きかける技であることを忘れてはならないと、しみじみ思うこの頃である。》
心に関する問題は、レントゲンや超音波の診断では把握できない。取り分け『トラウマ(精神的外傷、心に深く残るような衝撃や体験)』をかかえている人にとっては、人と人との密接なかかわりの中で癒されていくのではないだろうか。『打聴診』の大事さを医師の根本とする良識があることを知り、何かホッとする気分になった。
打聴診をする医師のように耳に心を働かせ、どんな小さなつぶやきも感じとる。これが『いのちの電話』の『聴く』ということなのかもしれない。