福島いのちの電話開局20周年を記念して、
福島民友新聞社さんに上・中・下、全3回の特集記事を組んでいただきました。
よろしければご一読ください。
以下、記事本文。
(2017年8月31日付・福島民友新聞掲載記事)
「一瞬でも安らぎを」
ひたすら相談聞き続け
寄り添う
福島いのちの電話20年
上
「トュルルル、トュルルル」。
相談員が相談室の席に着くと同時に電話が鳴る。
福島市にある福島いのちの電話の事務所。
悩みを抱え、自殺などを考える人の相談を年中無休で1日12時間受け付けている。電話はほぼ途切れることなくかかってくるため相談員と話すことができるのは1,2割ほど。一度つながれば、話はどうしても長くなる。一人の相談者に4時間を割くこともある。
「今なら、何人も殺害するような事件を起こす人の気持ちが分かる」。
相談員の60代男性は2年ほど前に受けた50代女性からの電話が忘れられない。女性は家族との別れを受け止めきれず、混乱していた。
女性は夫から数十年にわたり家庭内暴力(ドメスティックバイオレンス、DV)を受け続けたことを苦にして家を出た。一時的に保護施設にも入った。その後、支援者のサポートを受けて、家族や友人も知らない遠い他県に移住した。「自宅を出てから子どもの所にも身を寄せたが、ずっと居ることはできなかった。自殺も考えた」。相談員の男性はひたすら女性の話を聞き続けた。
「相談の基本は助言ではない。悩みを打ち明けることで悩みを解決する力を回復してもらうことだ」と、ある相談員は言う。いのちの電話の相談員厄100人は全員ボランティア。悩みを聞くベテランだがアドバイスの専門家ではない。基本はあくまで「寄り添う」だ。「自殺を考えているときは精神的に異常な状態であることが多い。ふとわれに返り、一瞬でも心が安らいでもらえれば」
福島いのちの電話が受ける相談のうち厄4割は県外からというのが東日本大震災、東京電力福島第一原発事故以降の割合だ。「何人も人を殺す人の気持ちが分かる」と話した女性の電話も県外から。女性は「原発事故で古里を追われた人は同じ気持ちだと思い、分かる人に話を聞いてもらいたかった」と理由を説明したという。「震災で大変なのにごめんね」。電話を切るときには「人を殺す気持ち」がすっと消えていた。
20年間で28万人相談
福島いのちの電話(茂田士郎理事長)は9月1日、開局から20周年を迎える。自殺防止を目的に全国で43番目に開局、20年間で延べ厄28万人から電話相談を受けた。警察庁によると、昨年の県内自殺者は378人で19年ぶりに400人未満となったが、社会に変化とともに相談者の悩みは多様化し件数も増加傾向にある中で、いのちの電話の存在感は増している。相談員らの取り組みを追う。
(2017年9月1日付・福島民友新聞掲載記事)
避難者の悩み分かつ
寄り添う
福島いのちの電話20年
中
東日本大震災、東京電力福島第1原発事故以降、福島いのちの電話には、震災や原発事故の被災者、避難者からの電話が増えた。ある男性相談員は、被災者らと同様に震災や原発事故を経験した相談員にとって「覚悟がいる電話だ」と打ち明ける。
専用ダイヤル開設
この相談員は約3年前、県外に子どもと自主避難した40代女性から電話を受けた。「福島からの避難者」との周囲の目を気にし、出身地も言えず悩みを抱えていた。「レストランに入店拒否されたり、『福島』のナンバープレートにいたずらされ、車のナンバーを変えたりしたようだ」
女性の夫は仕事のため本県に残っていたとみられ、県外に出た女性は身近につらさを打ち明けられる相手がいなかった。経験した者同士にしか分からない思いはどうしてもある。「聞いていてつらいからこそ『自分が聞かなければ』と思った」
別の相談員の男性も今春、避難者に対する視線がストレスとなった60代女性から電話を受けた。この女性は福島第1原発近くから県内の仮設住宅に避難した。数十年も農業が仕事だった女性は思うように仕事が見つけられず、無力感にさいなまれていた。「『帰還して頑張る人のように、私は頑張れないんです』という言葉が印象的だった」
震災と原発事故から6年となった今年3月11日、福島いのちの電話は避難者専用の「ふくしま寄り添いフリーダイヤル」を開設した。復興が進んでいるとされる中で、生活再建や帰還に踏み切れず「取り残された」と感じる避難者からの相談に対応するためだ。毎月11日、悩みを抱える被災者の電話相談を受け付けている。電話の最後に「またかけてもいいですか」と話す相談者もいるという。
(2017年9月2日付・福島民友新聞掲載記事)
やりがい発信が課題
寄り添う
福島いのちの電話20年
下
9月。夏休みが終わり、未成年の自殺に最も注意が必要とされる季節だ。「若い人の自殺は減っていない。10代後半から30代前半の死亡原因のトップは自殺」。自殺を減らすには若者との接点を増やすのが重要と福島いのちの電話の三瓶弘次事務局長は切実に感じている。
警察庁の統計によると、県内で昨年自殺した人は378人。全国的な減少傾向と同じく一昨年の436人より13%減少した。しかし20歳未満~30代の昨年の自殺者は100人で全体の26%で大きな変化はない。
メール相談検討も
若者がいのちの電話のダイヤル番号を押すには極めてハードルが高いとは三瓶事務局長も感じている。電話相談だけではなく、若者も利用しやすいメールや無料通信アプリLINE(ライン)を活用した相談の導入が今の検討課題。早ければ1,2年後に事業を始めたいが、問題となるのは相談員の数だ。
相談員確保
相談員は約100人。家族の介護などを理由に相談員を辞める人も増えているため、現在の体制を維持するだけでも毎年15人の新規登録が必要だが、相談員の研修者は年々減少している。相談員の新規登録の見通しは来年が0人、再来年が9人の予定だ。
相談員が独り立ちするには、心理学などの座学や実習などを含めた2年間の研修が必要。加えて、開局した20年前と比べると、社会貢献につながるボランティア活動の幅が広がり、実際に相談者路向き合うまでに時間のかかるいのちの電話はどうしても敷居が高い。三瓶事務局長は「『人の役に立ちたい』と思っている人は多いはず」と分析。相談員には「人に頼りにされる充実感が支え」と話す相談員は多く、いかにやりがいを発信できるかが、今後の活動を左右しそうだ。