(2017年9月2日付・福島民友新聞掲載記事)
社説
いのちの電話20年
一人でも多くの人に生きる力を取り戻してもらうことができるようこれからも電話の向こう側から聞こえる悩みや苦しみの声に耳を傾け続けてほしい。
電話相談を通して自殺を防ぐ活動に取り組んでいる社会福祉法人「福島いのちの電話」が1997年9月の開設から20年になった。
20年間で受け付けた相談件数は約28万件。かつては生活困窮や離婚、健康に関する悩みなどが多かったが、いまは心の病や介護疲れ、いじめの相談が増えるなど内容は多様化している。
相談者は、家族や友人にも悩みを打ち明けられない人が多い。名前を名乗らずに電話で相談できるいのちの電話は、一人で悩みを抱え込んでしまった人たちの「駆け込み寺」であり、この20年間果たしてきた役割は大きい。いのちの電話は、全てボランティアで運営されている。定年退職した公務員や教員、主婦らが中心だ。開設時の相談員は70人だったが、いまは約100人になった。それでも最も多かった2011年度の約120人に比べればずいぶん少ない。新たに相談員に加わるのは年間約10人足らずで、高齢や家族の介護を理由に辞める相談員と相殺されてしまう形になっている。
いのちの電話は年中無休、毎日午前10時から午後10時までの12時間体制で、月二回だけ24時間体制を目指しているが、なかなか実現しない。終日、相談を受け付けるためには、あと35人は確保しなければならないからだ。
生きる力をより多くの人に
東日本大震災と原発事故後は被災者や避難者からの相談が加わった。全体的には復興が進む一方で、生活再建が進まなかったり、帰還に踏み切れず悩みを深める避難者は少なくない。今年3月からは避難者専用の「ふくしま寄り添いフリーダイヤル」も開設した。
いのちの電話の活動は無償で、交通費も自己負担。福島市と郡山市の2ヵ所に相談拠点を置くが、県内各地から拠点に通うための負担は大きく、相談員の確保を難しくしている。増員や活動充実のためには会津若松市やいわき市への拠点設置が望ましいが、その運営を県民や企業からの寄付に頼るいのちの電話にはハードルが高い。
昨年の県内自殺者は378人で19年ぶりに400人を下回ったが、人口10万人当たりの自殺者は全国ワースト11位と依然、高水準にある。自ら命を絶つ人をなくすためには、行政やほかの民間の窓口との連携が欠かせない。そして、いのちの電話の活動に関心を持つ輪を広げることが大切だ。